Q&A⑩  《特注筆に応じて》②
         -新製品「明水」ー


  この度は、楽々堂にご用命をいただき有難うございました。

  送られてきた表彰状などのコピーを拝見して感動しました。一見、パソコンで書いたように
 見えますが、人間の技術はそれを軽々と超えるものだと思いました。見本筆一本で書かれた
 ことにも驚きました。


      
         中央が送られてきた見本筆。これ1本で左の表彰状を書かれるようです。右端、楽々堂仕様の
       「明水」。次が依頼主に送った完成品。まだ軸を取り付けてない筆先の部分です。


  この筆が入手しにくくなったとのこと、私も、ここまで小さな筆を作るのは初めてですが、原料
 や軸も手元にありますので、筆職人としてお役に立てればと思い作ってみました。

  取りあえず3本(壱、弐、参)作りました。

 壱・・・イタチ毛100%です。

 弐・・・手元に面白い毛(原料Aとしておきます)があったので、それを100%使って作りました。
     この毛は先が鋭く、イタチ毛より強く、値段も安いですが、欠点として、墨が切れると
     まとまりが悪くなり、何本か邪魔な毛が横に出てくることがあります。(もちろん、どんな
     毛でもその傾向はありますが・・・。ちなみに、邪魔な毛を取り除く時は、引き抜かないで、
     根元から切ることをお勧めします。)

 参・・・壱を6、弐を4の割合で混合した筆です。

  以上、3種類の筆をお試しください。どの筆かで素晴らしい表彰状が書けると良いのですが。
 ご検討ください。

  今後、改良できることは。

 ①まず、どの原料の筆が一番良いか決める。(壱、弐、参)

 ②毛先(又は、喉の部分)の量は適当かどうか。→ 多めにするー少なくする

 ③全体の筆の強さ、腰の強さはどうか。→イタチ毛筆(壱)が良いが腰が少し弱いという場合は、
 イタチ毛を9割位使用し、それに原料Aを1割位筆の中心から下の方(腰)に混ぜ込む。←例
 えば、こんな工夫もできます。ただ、ものすごく細いので、どこまで効果的にできるか自信はあり
 ませんが・・・。

 ④イタチ毛、原料Aの組み合わせで改良ができるのなら良いですが、全く異なる原料を使わなけ
 ればならない改良だったら、また時間もかかりますし、今回製筆の対応はすぐにはできかねます。

 ⑤希望の筆ができあがった場合、それと同じ筆で、少しずつ長さ・太さが大きいのもできます。

 ご検討、よろしくお願いいたします。


 ※ 私は現在、細筆、中筆、羊毛筆、特大筆など全て作っていますが、昔は師匠が専門分野に
   分かれており、細筆の師匠の元で修業すれば一生細筆を作る職人になりました。(現在でも、
   その傾向はありますが・・。)
   
    道具(特にクシ)が違うし、軸も異なります。そして、日頃、大きい筆(長い原料)を
   作っていたら、小さい筆(短い原料)は手からこぼれてしまいそうになります。道具や手の
   動きだけではありません。太筆と細筆では、筆の形(筆先の量、腰の強さなど)を微妙に
   変えねばなりなせん。この辺を全てマスターしなければ、書きやすい大小各種の筆を作る
   ことはできません。
   
   私の専門は中筆、特に羊毛筆です。しかし、要望に応じて、細筆も各種作るようになりま
  した。「白雲」などは楽々堂を代表する細筆になっております。ただ、今回のような、ここ
  まで小さい筆は、特別注文がなかったら作ることはなかったでしょう。

   結局、微妙な調整をして、イタチ毛100%の「明水」が誕生しました。注文主は勿論で
  すが、新製品として出したところ、反応がすこぶる良く、好評を得ています。 
  
(更に、3分の1くらい細い「明水」の注文がありました。)

   私の筆作りの幅を広げて下さった注文主の方に感謝しております。
   
   
  
現在作っている細筆です。左から3番目が「白雲」、右から2番目が今回注文の「明水」、右端が更に細い「明水」

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